沖縄黒糖

5月10日は「黒糖の日」 沖縄県の離島でのみ作られる『沖縄黒糖』 その甘く優しい“秘蜜”にズーム その①

 〜日本最南端の有人離島・波照間島「波照間製糖(株)」編〜

波照間島のさとうきび畑で収穫をする島の人たち。古くから近隣で共同体を作り、協働により収穫する文化が色濃く残っている

1980年の発売以来、沖縄黒糖を使った春日井製菓の「黒あめ」※1は、その変わらぬふくよかな味わいで世代を超えて愛され続けています。

実はこの『沖縄黒糖』※2は黒糖のブランド名。沖縄県にある8つの離島「伊平屋島、伊江島、粟国島、多良間島、小浜島、西表島、波照間島、与那国島」で、栽培されるさとうきびから作られた黒糖にのみ与えられる名称です。沖縄に黒糖の製造方法が中国から伝えられてから401年。

その魅力の一つが、8島で同じ原材料のさとうきびを使っていながらも、それぞれ味が違うこと。

今回は、その中でも波照間島と西表島の2工場へ潜入。その①では波照間島、その②では西表島の黒糖づくりについて、これまであまり知られていなかった『沖縄黒糖』の濃蜜なストーリーをご紹介しましょう。

(※1 「黒あめ」にはおいしくなる配合で沖縄黒糖を使用。今回紹介する波照間島と西表島の沖縄黒糖を使用しているとは限りません。※2 以降「沖縄黒糖」を、便宜的に「黒糖」と表記しています。)

 

そもそも砂糖って何からできているの?

砂糖売り場には、上白糖、三温糖、てんさい糖、黒糖など様々な種類の砂糖が並んでいる。砂糖の違いって何?そもそも原料は何?など素朴な疑問がふつふつと…。

そこで沖縄県黒砂糖協同組合が発行している「沖縄黒糖 学習帳」で学習することに。

そもそも砂糖の原料は、鹿児島県や沖縄県で作られるさとうきびと、北海道でつくられる甜菜(ビート)の2つ。種類の違いは製法によるもので、代表的な白砂糖と黒糖で見てみると、白砂糖はさとうきびと甜菜の両方から作れるが、黒糖はさとうきびからしか作れない。

北海道の甜菜(ビート)。ホウレンソウと同じ仲間で葉はホウレンソウにそっくり。砂糖になるのは大根のように見える根っこの部分

沖縄県のさとうきび。この茎の部分に含まれる汁に糖分が含まれている

また、白砂糖は甜菜の根から糖分を取り出し、濾過し、煮詰めて濃縮。そこから分離機で結晶と蜜を分け、結晶となった原料糖をさらに精製を重ねて作られる。一方、黒糖の製造方法はシンプルだ。さとうきびから汁を絞り、濾過した汁をそのまま煮詰めて、混ぜながら冷やし固めるだけ。

ちょっと紛らわしいのが、スーパーなどでよく目にする「加工黒糖」と表記されているものだ。もちろん黒糖は使っているが、そこに白砂糖を精製する際に残った液体(糖蜜)を混ぜた加工品で、当然味も風味も黒糖とは違う。

 

100年以上前から究極のサステナブル製品

 黒糖の原料となるさとうきびについて、波照間製糖(株)常務の金武清也さんと、西表糖業の赤嶺穣さんに聞いてみた。

「さとうきびの栽培は、春に植え付けを行う「春植え」、夏に行う「夏植え」そして、刈り取ったままの根からまた新しく出てきた芽が成長する「株出し」の3パターンあります。いずれも栽培期間は1年から1年半。よって収穫期は12月。この時期、工場は24時間稼働し、1年分の黒糖を製造します。

最近、さとうきびも品種改良により、より育てやすく、より糖度の高いさとうきびが登場しています。他の島でもほぼ同じ複数品種のさとうきびを育てていますが、収穫される「さとうきび」の品種の割合や、島ごとで異なる土壌によって味が変わるんです。少し専門的ですが、波照間島は窒素分が少なめでリン分が多く、良質なさとうきびが育つ条件が揃っているんです」(金武)

ちなみに、さとうきびの買取価格は、さとうきびの糖度によって決まる。糖度が高いほど価格が高くなる。単に収穫量だけで決まらないということを初めて知った。どの工場にも糖度計が設置され、搬入されたさとうきびの糖度をまず計測してから、製造工程に回される。

 「原料のさとうきびをすべて使い切ることから、これ以上のサステナブルな製品はないと言われているんです。黒糖は、さとうきびから汁を絞り、煮詰めて濃縮、かく拌冷却し、固めて仕上げます。製造工程で出る搾りかすは「バガス」と呼ばれ、離島すべての工場で、黒糖製造のためのボイラーの火力燃料に使われています。製造過程で排出される不純物なども畑に戻し、肥料として利用しています」(赤嶺)

 サステナブルという言葉が生まれる、何百年も前から、黒糖は究極のサステナブルな製品だったのだ。

 

「さとうきびは島の活力源」

波照間島の製糖工場に潜入!

ここまで沖縄黒糖と、さとうきびについて簡単に学んだところで、いよいよ現地工場へ潜入!

まずは波照間島へ。石垣島から往復1日6便の高速船が運行。所要時間は片道100分。かなり揺れると聞いていたが、幸いにもこの日は快晴で波も穏やか。とはいえ、パソコンを見たり本を読んだりするのは少しためらう。頭をまっさらに、のんびりと船旅を堪能することに。なかなか贅沢な時間だ。

港に到着し、船を下りた瞬間、目に飛び込んできた波照間の海は、おそらく人生の中で透明度も彩度も明度もダントツトップのブルーオーシャンだった。

もう一つ、目を引いたのは「領海・EEZ(排他的経済水域)を支える」と掲げられたモニュメント。ここは、日本最南端の有人国境離島。つまりこれより南に、日本人は住んでいないということ。すぐ側には、出荷を待つ黒糖を積んだパレットがずらりと並んでいた。

港にあるモニュメント。国土問題とも大きな関わりがある島であることがわかる

フェリーで出荷される黒糖

面積のおよそ7割がさとうきび畑という波照間島。約460人の人口のほとんどがさとうきび産業に携わっている。これには大きな理由がある。東西に長い波照間島。ひとたび台風が襲来すれば、南側の海の波しぶきが北側にまで達し、島全体がかぶるということ。米などを作るには厳しい環境である一方、さとうきびは暴風で倒されても、波しぶきをかぶっても、またそこから高く青い空に向かって逞しくまっすぐ育っていく。必然的にさとうきびで生計を立てるようになった。

「雨台風はむしろ歓迎!ミネラル分を豊富に含んだ、糖度の高い良質なさとうきびができるので」と語る金武さん。1961年に創業の波照間製糖(株)は、波照間港からほど近い場所にあり、年間1万tほどのさとうきびを扱う大規模な工場だ。

波照間製糖(株)常務の金武清也さん

 

最新鋭の工場見学

さとうきびから黒糖へ。その製造現場を覗いてみよう。

さとうきび畑からハーベスター(機械)または、手刈りで集められたさとうきびは、トラックに積み込まれて工場へ。さとうきびは鮮度が命!切り口から酸化し、どんどん糖度が下がっていくため、集められたさとうきびはその日にすべて黒糖に製造している。畑のさとうきびが工場に搬入され、搾ってから黒糖になるまでの時間はおよそ10時間。スピード勝負だ。

ところで黒糖を作る工程で何が一番大変か?

「長さが2m以上あるさとうきび。何と言っても収穫です。人手もかかりますし。ハーベスターで収穫すると、作業効率は上がりますが、鮮度が下がりやすいので、すべてハーベスターにするわけにもいかないんです」(金武)。波照間島では、裁断せずに工場まで運ぶ手刈りの割合がおよそ9割と圧倒的に多い。

これだけ手刈りが可能なのは、波照間島特有の“システム”があるからだ。「ユイマール組織」と呼ばれるもので、近隣の農家が集まり、それぞれの畑を順番にみんなで収穫する。さとうきびを収穫するための組織で、「元々は家や墓を建てる際、お互いに助け合っていたことから始まったんです」。工場からの指示を受け、収穫期を迎えた畑を協力して手刈りしていく。今なお残る、この組織こそが、波照間島の良質な黒糖づくりを支えていたのだ。

さて工場に運び込まれたさとうきび。手刈りのさとうきびは、まず適度な長さに裁断されてから、ハーベスターで収穫したさとうきびと一緒に、葉や茎の上の部分(梢頭部)を手作業で取り除く前作業を行う。

同時に、畑ごとに集められるさとうきびの中から数本取り出して糖度を測り、買取価格を決めるためだ。圧縮したさとうきびの汁を試飲させてもらった。少し青臭さがあるものの、後味は爽やか。自然の甘さゆえ、体の中にすーっと染み込んでいく感じだ。東南アジアの屋台で飲んだ、シュガーケーンジュースがまさにこの汁だ。搾りたてはフレッシュでおいしい。

いよいよ製糖工場へ。工場内は驚くほど整然としており、設備も最新鋭。国の政策により、8島の製糖工場は順次建て替えられているとのこと。波照間製糖でも2014年に新工場が竣工。最新鋭の設備を監視する集中管理室の導入など、製造の効率化を図っている。

それでは製造工程をご紹介!

①工場内ではカットされたさとうきびを粉砕して圧搾機にかけて絞り、汁を回収する。
絞ったあとのかす「バガス」はベルトコンベアーで運ばれてボイラーの中へ。
燃料として再利用される。

②さとうきびの汁をジュースヒーターで加熱し、させ、上澄み液(ジュース)のみを取り出す。ここで沈殿した不純物は畑の肥料として利用される。

ここがポイント1 
ボイラーの熱を利用して、上澄み液を4段階に分けて徐々に気圧を下げながら加熱濃縮する。「1号効用缶」ではさらさらで透明感のある液が、濃縮が進んだ「4号効用缶」を覗くと黒色のドロドロとしたものになっている。波照間製糖ならではのポイントは、上澄み液(ジュース)を流す管を銅製にしていること。8島ある全工場でも銅製を使っているのは波照間製糖のみ。銅は殺菌効果があり熱伝導率も良い。さらに濃縮工程が早いという利点がある一方、他工場が使っているステンレス製に比べて、サビやすいため念入りな洗浄が必要になる。

ここがポイント2
もうひとつの波照間製糖の大きな特徴である「オープンパン」による仕上げ工程。ここまで密閉状態で作業を進め、最後の仕上げだけオープンにして、およそ130度まで一気に加熱して濃縮させる。さらに、ワンバッチ方式と言われるもので、一回ずつ釜で仕上げていくのも波照間製糖のやり方。オープン状態にして職人が目視で最良の状態かどうかを毎回確かめられることが利点だ。オープンなので、周囲には黒糖の甘い香りが立ち込める。風のある日には、目の前の海まで漂うとのこと。他の島は、仕上げ工程も密閉状態のところが多く、「オープンパン」を採用しているのは、多良間島の製糖工場と波照間製糖のみだ。

⑤濃縮された黒糖を攪拌しながら冷却し、結晶化する。できたての温かい黒糖は柔らかく、鼻に抜ける風味が格別。口に含むとさらりと溶ける。

⑥完全に固まる前の状態で箱詰めしていく。1周およそ2時間かけてレーンに流し、冷やし固めながら少しずつ充填していく作業を12回繰り返す。手作業で行い、1日の製造数は約540箱。

すべての工程は集中管理室で監視できる

 

「いい黒糖を作りたい!」その想いは皆同じ

鮮度が命のさとうきびは、収穫期になると工場も繁忙期となり、24時間体制に。しかし働き方改革に伴う2024年問題をはじめ、後継者や人手不足など、直面する課題は多いと金武さんは語る。実際、金武さん自身が所有する24,000坪ものさとうきび畑の後継者はいない。それでも黒糖づくりは諦めない。それは黒糖そのもの魅力が大きいからだと。

箱に詰められた黒糖。12層になっている

「黒糖の魅力は、火を通さず調理もせずにそのまま食べられる。しかもミネラルもたっぷりで保存もききます。以前大阪に住んでいたことがあり、波照間島に戻ってすぐに阪神淡路大震災が発生。大阪に住む知人にすぐに黒糖を送りました。すぐに食べられて元気が出たと、とても喜ばれたんです。あらためて黒糖の魅力に気付かされましたね。

 多くの課題はありますが、幸い波照間島には「ユイマール」があって、工場のOBでもある農家との連携も強い。みんな、いい黒糖を作りたいと思っているんです。いい黒糖はいいさとうきびから作られることもわかっていますから。今の作り方は守っていきたいんです」(金武)

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