“おかし”な営業社員が奔走! お菓子愛を極めた先の「そこまでやりますか?」な話

「ウチに黒あめを使った料理を作る社員がいるのですが、取材しませんか」

そんな依頼を春日井製菓からいただいたのが、つい先月のこと。話を詳しく聞いてみると、その社員らは黒あめで梅酒を漬けてみたり、黒あめを使った角煮のレシピ動画を自作したりしているらしい。しかも彼らは誰かに頼まれたわけではなく、自発的にレシピを研究している、というのだ。

黒あめといえば、昔、習字教室の先生がポケットに大量の黒あめを入れていた。終わり際、墨のついた大きな手で「コレ食べなね」とごっそり手渡してくれる。大粒のゴツゴツした黒あめを、ランドセルを背負いながら舌に転がして帰路についた記憶がある。

なんとなく“昔なつかしの味”というイメージをもつ黒あめ。そんな黒あめの可能性に着目したのは、いったいどんな社員なのだろう。変態的に黒あめを愛するマニア? ないし、黒あめとともに人生を歩んできた大御所社員だろうか(※春日井の黒あめは昭和55年/1980年に発売開始)。期待に胸を膨らませながら、私は春日井製菓の東京の営業拠点を訪れた。

精肉コーナーに黒あめがあったらすごくないですか?


▲黒あめ梅酒を考案した中山さん(左)と、豚の角煮動画を作成した佐藤さん(右)。

お話を聞いたのは、春日井製菓に勤める中山さんと佐藤さん。彼らがウワサの「黒あめの錬金術師」だ。黒あめの“昔なつかし”なイメージとはやや離れた、爽やかな見た目である。

佐藤「僕たち営業は、全国各地にある問屋さんや小売企業さんに、うちのお菓子を販売していただけるように提案する仕事をしています」

高木「なるほど。しかし、なぜ営業マンであるお二人が、こういった“お菓子を使ったレシピ”の考案をされているのでしょうか?」

中山「最初はまさに営業目線、つまり『いかに自社の黒あめを多くのお店で販売してもらえるか』からスタートしました。1年を通し、夏場はキャンディだけではなくお菓子の市場全体が落ち込むシーズン。その時期でも黒あめを売る方法はないかな、と考えたのがきっかけでした。

そこで僕が考案したのが黒あめ梅酒。ちょうど梅の時期が5〜6月に始まるので『試しに黒あめで漬けてみるか?』と。入社して2年目の時に漬け始めて、今年で4年目になります」

高木「でも、梅酒って1〜2日ですぐに完成するようなシロモノではないですし、漬け込む労力と時間がかかるイメージがあります。よくチャレンジされましたね!」

中山「確かに味についてはあまり期待していませんでした。ただ、最初に漬けた梅酒が完成した時、市販の梅酒よりも味がしっかりしていたんです。毎年コツコツ漬けて試行錯誤を重ねていたら、徐々に社員やお取引先にも広まっていきました。

いろんなフレーバーが混ざったアソートキャンディと違って、黒あめは一つの味だけの一本勝負。でも、梅酒のようにたくさん使うチャンスがあれば、大袋でも手に取ってもらいやすくなります。去年は大阪や九州の支社でもそれぞれ黒あめ梅酒を漬けてもらい、商談材料にしているんですよ」

高木「営業がうまい! 黒あめ梅酒の輪が着実に広がっているんですね。一方で、佐藤さんは黒あめで角煮のレシピを考案されたと伺いました」

佐藤「僕も最初は『黒あめを色々なところに並べたい』っていう気持ちからスタートしました。お菓子売り場以外の場所で黒あめを見かけるようになれば、もっと注目されるのでは、と思ったんです。中山が梅酒レシピで着々と営業実績を作っているのを見て『精肉売り場向けにはコレだ!』と煮物系のレシピに至りました」

高木「せ、精肉売り場に黒あめが並んでいるのってシュールすぎません?」

▲「精肉や鮮魚のコーナーに黒あめを置きたい!」と熱弁する佐藤さん。ただレシピ動画を作成したことは、社内でもあまり公表していなかったらしい

佐藤「例えば精肉売り場には使い切りのステーキソースや焼肉用の牛脂、持ち運びに適したミニサイズのウスターソースなどがありますよね。鮮魚コーナーには1回分のサイズでワサビや醤油が常に置かれています。黒あめがその並びに置かれるようになったら『今日は煮物を作るから黒あめを5粒用意しようかな』って手に取る人がいるかもしれないじゃないですか」

高木「あ〜、確かに。しかも小分けで使える黒あめを使えば、台所のスペースもスッキリしそう」

佐藤「家の調味料棚に黒あめを常備してもらって、砂糖の代わりに使ってもらえればいいよね、と。料理の合間にもつまみ食いで一粒舐められるし、小さいお子さんには『黒あめを包み紙から出して〜』って料理のお手伝いをする機会が生まれる。料理が美味しくなるだけじゃなく、面白くもなると思います


▲佐藤さんがスマホで何度も撮り直して作ったというレシピ動画。最後に登場するイニシャルから醸し出されるのは「探さないで、でも見つけて」という佐藤さんの複雑な心境?

“黒あめ”は超優秀な調味料だった

高木「黒あめを料理に使う、と聞くと『まあ確かに使えそうだわな』って納得はするのですが、黒あめを使うことでどれだけのメリットがあるか……ということまでは、私も考えられていませんでした。お菓子会社の営業さんならではの発想かもしれないですね。でも、いよいよ“黒あめレシピ”がどんな味がするのか、気になってきました」

中山「あ、ちょうど僕が漬けている梅酒があるのでお持ちしますね!」

▲あたかも実家の戸棚から出てきたかのような風貌の梅酒瓶だが、貴重な営業アイテム。中山さんはなんと梅酒用のレードル(お酒を汲み上げるための杓子)も会社に常備していた。


▲一口飲んで、目玉が飛び出そうになった。うますぎて馬になりそう

高木「な、なんだこの優しい味は……! 柔らかい甘さがブワッと広がりました! ブランデーのようなコクとまろやかさがあります。バニラアイスにかけても美味しそう」


▲濃厚な甘みがぎゅっと凝縮された梅。普通の梅酒よりも色が濃いのでムニムニした食感かと思いきや?

高木「梅はしっかりと味が染みているのに皮がカリカリ。ひと噛みするごとにパリッ!ジュワッ!と弾ける食感が面白いです。 この梅、ガムみたいにずっと噛んでいたいな……」

中山「梅はちょっと度数が高いので気をつけてくださいね。梅酒は去年2020年の6月から漬け始めたので、約11ヶ月ほどになります。春日井製菓の黒あめは香料を使っておらず、黒糖は100%沖縄産。だから深くてやさしい甘さに仕上がるんだと思います」

高木「普段あんまり梅酒を飲まないのですが、これならグビグビいけそうです。ああ、これは角煮も食べてみたいなあ……(チラッ)」

佐藤「実は今日作ってきたので、召し上がりますか?」

高木「いいんですか!! ありがとうございます〜!!」


▲会議室の蛍光灯に反射して、テラテラと光り輝く豚の角煮。一目見ただけでも、味がしっかりとしみ込んでいることがうかがえる。


▲口に入れた瞬間、テンションが上がりすぎてニヤニヤが止まらなくなった

高木「柔らかっ! 一瞬でホロホロって溶けました。豚バラ肉の脂っこさも感じられなくて、くどさや雑味が無いというか。肉本来の甘さが引き出されているような感じがします。まさかお菓子の会社に来て、こんなに美味しい角煮をいただけるとは」

佐藤「冷蔵庫で一晩ほど漬け込んだんですけど、ちゃんと味が染みているようでよかったです。僕も食べようかな」


▲「お米も用意すればよかったですね」(佐藤)

高木「企業の応接室で、昼前から晩酌セットをいただけるなんて思いませんでしたよ。この角煮も作るのも手間がかかったのでは?」

佐藤「お砂糖のかわりに。春日井の黒あめを10粒ほど入れて煮詰めています。肉じゃがや煮魚など、煮物全般で使えますよ」

高木「黒あめの良さが違和感なく料理に溶け込んでいます。これはもっと他の料理でも試したくなるなあ」

佐藤「黒あめって調味料としての可能性が無限に広がっているんですよね。特に春日井の黒あめは余計な添加物が入っていない分、溶けやすい性質があります。黒糖ラテのようなドリンクにも活用できそうです」

春日井社員が語る黒あめ、もといお菓子への「愛」

高木「お二人の話を聞いてたら、だんだん黒あめレシピを試したくなってきました。ここまで黒あめ愛を語れるということは、お二人のベスト・オブ・お菓子って黒あめなんですよね」

佐藤「いや、別に

中山「僕、正直ポップコーンが一番好きです

高木「うそやん」

佐藤「僕は異業種から転職して来た身なので、どちらかというと使命感で黒あめと向き合ってる気がします。。春日井製菓の社員になった以上、看板商品の黒あめと向き合ってなければここにいる資格はないと思っていて。黒あめのことをもっと知ろう、もっと好きになろうとは常に思っています」

高木「企業愛に紐づいた黒あめ愛だったんですね。ひょっとして“利き黒あめ”とかもできたりして」

佐藤「目隠しされると怪しいですが、粒の大きさからどこのメーカーかを見分けることはできますよ。うちの黒あめは粒が大きいから一発でわかります。あと黒あめに限った話ではないですが、コンビニやスーパーでお菓子の新商品を見つけたら、パッケージの裏をすぐ見ちゃいますし、買って食べますもんね」

中山「わかります!僕も商品の裏を見て、原材料や製造元を見る癖があります。あと、店舗のレイアウトは絶対チェックしちゃうんですよね。お店には野菜、精肉、お菓子売り場……といった購買導線があるので、配置や価格帯を確認して『どういった商品が人気なのか』を地域ごとに観察したりします。プライベートの旅行先でも、スケジュールの中に“地元のスーパーに行く”って必ず組みこみますし

佐藤「ああ、すごくわかる〜」

高木「すみません、ちょっと引いちゃってます

中山「引かないでください!(笑) 業界用語では“ゾーニング”というのですが、キャンディ売り場もフルーツ系やハーブ、のど飴など、ジャンルごとに置き場が設計されているんです。お菓子売り場一つを取っても、柱の位置やお店の総面積、レイアウトに応じて並びが全然違うんです。店舗を見ることで、その地域の食の歴史や文化、食卓の様子がなんとなく見えてくるんですよね」

高木「なんだか、自分がスーパーやコンビニに立ち寄る時の視点が変わりそうです。しかし、中山さんは、先ほど『ポップコーンが好き』と衝撃発言をされていましたよね。黒あめに対して、そこまでの情熱を注げるのはなぜでしょうか?」

中山「いや、お菓子全般が大好きなんですよ。黒あめもその一つ。特に偏った愛情を注いでるわけではないですけど、抹茶あめやミントキャンディのような、他のお菓子と同じくらい好きなんです。今回はたまたま黒あめを使った梅酒のレシピを考えましたが、お菓子業界が盛り上がるように、もっといろんなお菓子を使ったレシピを考えようと思ってます」

高木「そこまでお菓子にどハマりしたきっかけはなんだったのでしょう?」

中山「元々高校の時からお菓子が好きで。『朝昼晩お菓子を食べ続けられないか』をずっと考えてたんです。気づいたら大学も栄養関係の分野に進み、春日井製菓の社員になっていました。最初は開発職を目指していたのですが、今は営業の方が楽しいです。でも、いつか『お菓子は完全食』と胸を張って言えるような商品を作ってみたいですね


▲「お菓子は完全食になります」とにこやかに語る中山さん。底知れぬお菓子愛を感じる。

高木「佐藤さん、春日井製菓の社員さんたちって、中山さんのような方が多いのでしょうか?」

佐藤「そうですね。『ご飯を食べるんだったらそのカロリーをお菓子に使いたい』という社員は実際に何人かいます。お菓子を食べるために糖質制限をしている社員もいますし。でも中山は春日井の中でも特に熱狂的なお菓子好きなんじゃないですかね」

高木「恐ろしい子」

中山「恐縮です」

取材後、なつかしの黒あめを舐めながら

春日井製菓で梅酒と角煮を堪能したあと、すっかり気分が良くなった私に、中山さんは「コレ、お土産です」と黒あめ(150g入り)を手渡してくださった。今もPCに向かいながら、いただいた黒あめを舐めている。

正直な話、黒あめレシピの話を聞いた当初は「黒あめじゃなくて砂糖を使えばいいじゃん」とも思っていた。しかし、黒あめレシピについて語る彼らの表情はめちゃくちゃ生き生きとしていて、取材後はこっちまで「ねえ、黒あめで料理が作れるんだよ」と誰かに話したくなった。

今、コロナ禍の影響で外食を控えるようになった結果、自炊の機会が増えている。食べる側も作る側もマンネリとの戦い。そんななか「コレ、隠し味はなんだと思う?」という会話の糸口となるような料理があるだけで、食卓は華やぐだろう。彼らが発案した「お菓子なレシピ」は、“美味しさ”だけではなく“笑顔”もつくり出す可能性を秘めているのだ。

また、春日井製菓には彼らのような「ピュアなお菓子愛」をもつ社員が多いという。次はどんな「オカシな社員」の偏愛っぷりを聞けるのか、楽しみにしている。

黒あめでつくろう『白黒梅酒』のレシピ
(写真をクリックするとレシピページに飛びます)

黒あめでつくろう『白黒梅酒』

高木 望|たかぎ のぞみ

1992年、東京生まれの編集者・ライター。広告代理店勤務を経て独立。
アニメやマンガ、クラブカルチャーなどの文化系テーマを中心に、経済から科学にまつわる記事まで、幅広いジャンルの取材記事を手がける。
主な執筆媒体はタイムアウト東京、Qeticや雑誌『BRUTUS』など。音楽フェス「岩壁音楽祭」主催メンバー。好きなお菓子はアイス。

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