しっかり者の祖母の様子がおかしいと気づいたのは、大好物の黒飴を一日で一袋全部平らげてしまったからでした。 認知症と診断されて施設に入ってからはあっと言う間に症状が進みました。肺炎で絶食状態が続いたあとは、嚥下訓練がありました。 訓練のひとつに、棒つきキャンディーを舐めるというものがあるのですが、祖母はなかなか舐めてくれません。 その頃、大学生だった私の弟が、ある日、祖母との面会のときに、タッパーウェアに何かを入れて持ってきました。 驚いたことに、それは自作の棒つき黒飴キャンディーでした。市販の黒飴を温めてやわらかくし、棒をつけたあとで、また冷まして固めたそうです。 祖母はきっと大好物の黒飴でなら、嚥下訓練も楽しくなるだろうと考えたのだそうです。我が弟ながら、とても感心しました。 大好物はわかるのか、すんなり棒つき黒飴を口に入れたときの祖母の笑顔も、ホッとしたような弟の笑顔も、私はずっと忘れられません。
絵本作家の加藤休ミさんより
絵本の構想を練っていると、自分の祖母のことを思い出されました。
私の場合、着物の袖から出てくるのは、塵紙です。
ポケットティッシュではないので、むきだしのくしゃくしゃで、生活の匂いも混じっていました。
このお話の原作者は、主人公の”僕” のお姉さんです。弟の思いやりある行動が、いつまでも暖かいエピソードとして残っていたそうです。
家族思いの有薗花芽さんの作品にお手伝いが出たことを嬉しく思います。
原作者 有薗花芽さんの受賞コメント
囲炉裏の灰の匂い、すりたての清々しい墨、黒あめがいつも入っていた木製のお茶菓子入れ。
懐かしいものはもうみんな消えてしまったと思っていたのに、大切な思い出と一緒に、そのすべてが絵本の中で、まるで魔法のようによみがえっていることに思わず息を飲みました。
ああ、確かにそうだったと、記憶の深いところに沈殿していた色や形が次々に浮かび上がってきたら、耳の奥に懐かしい祖母の声が聞こえてきて胸がいっぱいになりました。
いつかは忘れ去ってしまっていたかもしれない「あの時」を、永遠に残る絵本の宝物に変えてくれた加藤休ミ先生に、心から感謝いたします。ありがとうございました。