おかしなくらいおかし好きおかしなひとたち【2026年】5月10日「黒糖の日」沖縄黒糖のパワーを科学する。長寿社会実現に有意義な機能とは
【2026年】5月10日「黒糖の日」沖縄黒糖のパワーを科学する。長寿社会実現に有意義な機能とは

左から<春日井製菓>商品本部本部長:川鍋洋治さん、<琉球大学>高良健作教授、YONATHAN ASIKIN准教授、<春日井製菓>商品開発部:本田寛幸さん、上谷万葉さん ※以下敬称略
超高齢化社会が進む日本で、「健康寿命」への関心がかつてなく高まっています。そんな中、春日井製菓は2020年に「高齢者プロジェクト」を始動。長寿社会に貢献できる素材の基礎研究に乗り出しました。注目したのは、1980年の発売以来40年以上愛され続けているロングセラー商品の「黒あめ」にも使われている「黒糖」でした。その健康への可能性を科学的に解き明かすべく、2023年からは琉球大学農学部との共同研究をスタート。

今回は、このプロジェクトの中心メンバーである商品開発部の本田寛幸さんをはじめ、開発・マーケティング関係者が、琉球大学農学部の高良健作教授の研究室を訪問。「黒糖研究」の現在地と、これからの展望についてお届けします。
なぜ愛知の菓子メーカーが沖縄黒糖を研究するのか?

Q.そもそも愛知県の会社である春日井製菓が、沖縄黒糖の研究を始めたきっかけは?
本田:弊社では、沖縄産の黒糖を使っています。黒糖が健康にいいとは言われていますが、それを裏付ける科学的な根拠を自分たちの手で科学的に明らかにしたいという思いを持ち続けていました。2023年の時点では、第1弾として、沖縄黒糖を含むキャンディを食べると、唾液の分泌を促すという研究結果を出しました。
次の研究をどうしようかと考えた時に、やはり沖縄の素材なので沖縄というストーリーを大切にしながら研究したいと思ったのです。そこでお願いしたのが琉球大学でした。前副学長の和田先生を介して、高良先生をご紹介いただき、これまでの先生の研究の内容を伺い、共通する部分が多かったことから共同研究をお願いすることになりました。現在は、第2弾の研究が進行中です。そのための黒あめも特別に作ることになったのですが、その際、沖縄県の「沖縄黒糖販路拡大推進事業」の補助金を活用しました。

Q.高良先生は長らく沖縄黒糖の研究をされているそうですね
高良:大学4年生の時に配属されたのが、「製糖化学講座」という、日本で唯一の製糖を専門とする研究室でした。最初の研究テーマが、黒糖の抗酸化機能性についてで、それ以来サトウキビの研究を続けてきました。
具体的には、虫歯菌を抑える成分や美白に関わる成分が含まれているのでは?という研究でトライアンドエラーを繰り返してきました。こうした成分はごくわずかですが、その微量な物質を引っ張り出してきて、何か役立てられないかを探り続けていました。
研究を続ける中で、サトウキビを愛する人たちが集まる「サトウキビ利用加工研究会」が20年前に立ち上がり、私も参加して15年ほどになります。そこで農家や製糖工場の工場長、品種改良の専門家など、さまざまな立場の人と交流ができ、ご縁が広がっていきました。本田さんとの出会いは2023年で、翌2024年に高知県で開催されたこの研究会で、黒糖研究について講演をお願いしました。
Q.高良先生は、黒糖の何に魅力を感じて研究を続けているのでしょうか?
高良:一番面白いと思っているのは「揺らぎ」です。同じ黒糖でも、製造するたびに色が変わったり、固まり方が異なったり、味も微妙にぶれます。普通は「品質が安定しない=問題になる」と捉えられがちですが、私はそこにこそ黒糖の魅力が詰まっていると思っているのです。
白砂糖はほぼ100%がショ糖で、製造の過程で余分な成分をすべて取り除いてしまいます。しかし黒糖は、サトウキビが自ら作り出したミネラルやポリフェノールといった物質をそのまま残して固めています。この残っている部分を不純物と呼んでいますが、この不純物こそが揺らぎをもたらし、同時に飽きない味の源泉でもあるのです。
たとえば、レモン風味のお菓子を作る時、香料を少し入れれば確かにレモンっぽくなります。しかし本物のレモンを絞ったものとはまったく違って、飽きてしまいます。同じように、黒糖の複雑な成分が絡み合うことで、食べ続けても飽きない味が生まれます。天然が生み出す複雑な物質の混合が、飽きない味を作り出しているのです。

Q.その「揺らぎ」が飽きのこない美味しさになるというのは、菓子メーカーの立場からするとどうなのでしょう?
上谷:商品としてできるだけ味を平準化するためには、正直コントロールが難しい部分です。ただ逆に言えば、そこが弊社の黒あめのおいしさの大事なポイントです。100%白砂糖なら「黒あめ」の味は絶対に出せません。沖縄黒糖の味のバランスを弊社で調整して今の味があるので、黒糖だから出せる味、というものは間違いなくあります。研究を通じて「なぜ美味しいのか」、その理由を先生方に化学的に説明していただけたので、これまで“感覚”として捉えていたものが、確信に変わりました。
高良:ロングセラー商品の裏側にあるのは、そういう複合した化合物の存在だと思います。これをさらに深掘りして、「どの成分がどう味に影響するか」まで解明することが、これからの研究課題になりますね。
Q.飴という食品形態に何か特別な意味があるのでしょうか?
上谷:飴は、食品の中でもかなり独特な存在です。口の中に5分から10分間留まり続けます。これほど長く口の中に留まるものはなかなかありません。それだけに味づくりは一番の鍵で、時間の経過とともに、唾液と混ざることで起こる味の変化や、賞味期限の設定までも含めて丁寧にデータを取っています。
高良:基礎研究で黒糖の成分を分析し、その延長で応用研究を設計して最終的に飴という形で活かせるようにすると聞いた時は、なるほどそれができるのかと驚きました。研究室で積み上げてきた知識が、こうして具体的な形で社会に届く瞬間というのが、産学共同研究の醍醐味だと感じています。
黒糖は主役にも脇役にもなれる懐の深い素材

Q.黒糖は島ごとに違うとよく聞きますが、実際はどれくらい違うのでしょうか?
高良:沖縄では八つの離島で黒糖が作られていますが、島ごとに個性がまったく違います。さらに同じ島の中でも製糖期間が12月から3月の間に品種が切り替わっていくので、初期と後期でも特性が変わりますし、年ごとでも変わります。
ワインのヴィンテージみたいなイメージで言うと、例えば2000年のボルドーが最高だと言われるように、黒糖もどこの島の何年度産のものが美味しかった。という年代ものに付加価値をつけることができると面白いと思っています。それくらい「揺らぎ」という「ブレ」を楽しもう、という概念があっても良いと思うんです。
ASIKIN:半年、1年、2年と保管した黒糖を、3カ月ごとに確認すると、色が濃くなるだけでなく、揮発性化合物や香り成分、さらには機能性まで変化していくことがわかりました。単に在庫が古くなっていくのではなく、ある種の熟成という概念に相当すると思いますが、「エイジング」として価値が増していく可能性があります。
高良:今までは、豊作で在庫が増えてしまったので早く売らなければ、という見方が当たり前でしたが、違う見方をすれば、一年経過して味が落ち着いた方が活かせることもあるのではないかと言えるのです。保管のコスト問題はありますが、価値を正しく伝えることができれば、価格への転嫁も不可能ではないと思うのです。
一方で、黒糖は「主役」だけでなく、「脇役」にもなれます。たとえば、和菓子では、小豆の味を引き出すために、強く主張をしない、落ち着いた甘みの黒糖の方が使い勝手が良いこともあります。主役にも脇役にもなれる。これが黒糖の懐の深さだと思います。

Q.黒糖そのものの魅力について、「風味」という言葉がよく使われていますが、風味とは具体的に何なのでしょうか?
高良:学術的に言うと、風味(フレーバー)というのは、鼻から得る香りと口から入る味の両方を含む概念です。黒糖の場合、ミネラルによる苦味や酸味が「味」の部分に関わり、糖とアミノ酸が加熱することで褐色に変化する“メイラード反応”によって、香ばしい「香り」の部分に関わっています。
サトウキビが刈り取られると、植物は「生き続けたい」と自分のショ糖を分解してグルコースを作り出し、頑張って根を出そうとします。この状態で工場に運ばれて加熱されると、そのグルコースとアミノ酸が反応して、香ばしいという風味成分に変化します。これが黒糖のメイラード反応です。
ASIKIN:メイラード反応によって作られる風味成分は、通常の白砂糖より黒糖の方がはるかに多いのです。これがカラメルの香りだったり、少しピーナッツのような、コーヒーのような香りにもなります。さらに1年、2年と保管している間にもどんどん変化していくことが分かってきていますが、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。
高良:こうした解明されていない中でも、「フラボノイド」が、わずかな量でも機能性に大きく関係していると考えています。このあたりをさらに深掘りして、研究を進めていきたいと考えているところです。黒糖研究は、まだまだこれから進展していくと言ってもいいかもしれません。
産学連携で得られた研究結果
Q.春日井製菓と一緒に研究した第1弾のテーマはどのようなものでしたか?
高良:まず注目したのが「唾液の分泌」です。飴は口の中に5分ほど留まり続けます。この間、唾液が分泌され続けることがヒト臨床試験で確認できました。
唾液が豊富に出ていると、口の中が洗浄されて、糖が歯の表面に留まらなくなります。虫歯の原因は、細菌が糖を使って酸を出すことですから、唾液がその糖を流してしまえば、虫歯になる経路が絶たれます。さらに唾液の分泌は、血管の拡張とも関係しており、口の中だけでなく全身への波及効果も示唆されています。
「甘いものを食べると虫歯になる」と、昔は言われていましたが、ちょっと古い考えです。固定概念をなくしてもらわないといけませんね。黒糖の飴は唾液分泌を促進させますから。さらに、他にも機能があるのではないかと、飴を媒体にした研究だからこそ見えてきた発見でした。
上谷:黒糖の飴と唾液分泌の組み合わせというのは、弊社としても新しい価値の発見でした。単においしいだけではない、新しい価値が作れるのだと。
Q.この研究の結果、2025年の「第1回沖縄黒糖カンファレンス」で受賞されたそうですね
本田:はい。11月に開催されたカンファレンスで、弊社が発表した第1弾の研究成果である「沖縄黒糖に含まれるポリフェノールが唾液分泌を促進する」という機能性の発表で、新需要創出賞をいただきました。
推薦人が高良先生で、共同研究者の先生に推薦していただけたことは大きな意味があったと思っています。沖縄県黒砂糖協同組合が主催のカンファレンスで、第1回目に受賞できたことは、研究チーム全員にとって大きな喜びでした。
高良:本田さんたちが積み上げてきた研究の価値を、沖縄の皆さんに直接届けられる機会になりました。県外企業が沖縄黒糖の健康価値を、ここまで真剣に研究してくれている。それ自体が沖縄の人たちへのメッセージになっていると感じています。
Q.今は第2弾の研究が進んでいるとのことですが
高良:はい。第2弾の研究については、今年中には発表予定です。黒糖に含まれる、植物が身を守るために作るポリフェノールの一種である「フラボノイド」に関する研究です。まだ正式にお話できないのですが、黒糖に含まれるフラボノイドは微量ですが、このわずかな物質でも、飴として5分間口に入れ続けることで何か機能性が出てくるかもしれない、という発想からの研究です。
現在、黒糖の飴と、普通の砂糖の飴を食べ比べてもらう、3カ月間のヒト臨床試験を実施しています。30〜100人規模の方に参加していただき、医師による適格性の判定や同意書の取得、採血まで伴う、かなり厳密なプロセスを踏んでいます。
日本の機能性表示食品の基準では、概ね8週間の摂取が必要とされていますが、今回はそれよりも長めに設計しなければ変化が見えにくいと判断して、3カ月にしました。食品の機能性を評価するためには、繰り返し摂取することが重要なのです。一回食べて効果が出るような強いものは、逆に食べ過ぎた時に問題が起こりやすくなります。飴は一袋手にすると、何個も食べ続けられます。だからこそ繰り返し摂取することで得られる、じわじわとした機能性を検証したいのです。健康な方を対象にしているため、効果はどうしても微細になりますが、丁寧にデータを積み上げていくことで結果が得られたらと考えています
Q.本田さんは春日井製菓の商品開発者であり、研究者でもあります。こういう関わり方は珍しいでしょうか?
高良:そうですね。まず何より本田さんはとても几帳面で慎重です。この慎重さゆえに、研究結果の積み上げがしっかりしていて、一緒にやっていて安心感があります。
メーカーの方と一緒に研究すると、「商品を作ることに関しては詳しいけど、研究に関しては全部お任せ」というパターンが多いのです。しかし本田さんは、研究側の事情もよく知っている。「これは科学的に難しい」とこちらから伝えても、きちんとその意味を受け取り、製造側の現実と照らし合わせながら、前に進めてくれます。この橋渡しをしてもらえたことが大きかったです。
本田:大学で微生物学と遺伝子工学、大学院で細胞培養と免疫学を学んで、前職では食品分析(理化学検査)に約10年間携わってきました。この経験があるからこそ、機能性成分の抽出方法や作用機序が想像できるのだと思います。
今回の研究に関しても、私から黒糖に含まれる微量成分(ポリフェノール)が、飴という媒体を介すると黒糖の機能性を最大限に引き出せる組み合わせになるのではと、先生にお話ししました。
高良:この微量成分(ポリフェノール)が、応用という形でお菓子に生かされる可能性が見えてきたときは、なるほど、こういう展開があるかと、基礎研究が実を結ぶことができるのだという喜びがありました。実際のところ、沖縄県内の企業さんと黒糖に関しての共同研究という事例はないのです。なかなかメーカーで、ここまで想いを持っている方はいないんじゃないかと思います。
Q.今後の展開について教えてください
高良:まもなく第2弾の研究結果について、論文執筆に取り掛かります。今年の8月26日〜28日に東北大学で開催される学会で口頭発表を予定しています。飴の機能性を産学共同で研究していることをアピールできればと思っています。
ありがたいことに、ヒトを対象とした実験が必要な研究は、我々にとってもハードルが高いのですが、その部分で本田さんから一緒にやりましょうとお声がけいただき、実施できたことはとてもありがたかったですし、貴重な機会になりました。私は黒糖以外の研究もしているのですが、沖縄の野菜など、他の食品の研究にも今回の手法は横展開できると考えています。
もう一点、「黒あめ」は定番商品としてあると思いますが、たくさんの種類のグミも作っていますよね。そこに沖縄の農産物を使ってもらえると嬉しいなと思います。
川鍋:今後もこれにとどまらず、次につながるような研究を先生方と続けていきたいと思っています。沖縄農産物を生かしたグミなど、新商品の可能性も探りながら、今後も研究のご協力をお願いすることになると思います。
ASIKIN:私は日本人でも沖縄出身でもありませんが、沖縄の農産物の魅力をもっと広くアピールしていきたいと思っています。特に黒糖という素材は、島を越え、専門領域を越え、国籍さえも越えて人々を引き寄せる力を持っています。その力の源泉が何なのかを、さらに解き明かしていくことこそが、この研究の核心だと思っています。
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ライター/ましもさとこ
一日一餡を公言するあんこ好きライター。
甘いもしょっぱいも熱いも冷たいも、どんなお菓子も人間もなんでもござれ!
ただしあんみつは断然黒蜜派。自家製梅酒やポテトサラダにも沖縄黒糖を使う。
沖縄黒糖の塊を削って、カフェオレに乗せて飲むのが最近のお気に入り。






