Kasugai春日井製菓株式会社

おいしくて、安心して多くの人々に愛され続けるお菓子作り

TOPおかしなくらいおかし好きおかしなひとたち「おかしなサマースクール in 愛知」が叶える 新しい企業共創のカタチ

おかしなひとたち

コラボレーション 共創 おかしなサマースクールin愛知

「おかしなサマースクール in 愛知」が叶える 新しい企業共創のカタチ

〜仕掛人が語る。46社が肩を組む前代未聞の社会実験とは〜

文/真下智子  写真/野村優、おかサマメンバー

「何かおもしろいことやりたいよね」。

2023年に95周年を迎えた春日井製菓。社内部署の一つ、『おかしな実験室』(以下おか験)を率いる原智彦氏の何気ない呟きから始まったイベントプロジェクト、「おかしなサマースクール in愛知」(以下おかサマ)。業界の垣根を越え、愛知に拠点を置く企業が肩を組んで共創し、子どもから大人まで、幅広い参加者に喜びと学びを届ける真夏のイベントだ。

驚くのはその“数”だ。2023年に第1回を開催してからわずか3年で、参画企業数は約4倍の46社に。イベント数・参加者数ともに3倍以上に成長した。取引先でもない企業が、これだけの規模で行う企業共創イベントは、おそらく前代未聞だろう。なぜ自社の枠を越えて、社会に開かれた学びの場を育てることができたのか、原氏に聞いた。

2025年の一言総括は「すごいな…」

「“奇想天外”、いや、“すごいな…”ですね」

2025年のおかサマを一言で表現すると?との問いに、原氏は少し考えてからこう答えた。「…」に込められた余韻には、驚きとも達成感とも異なる、確信のようなものがにじんでいた。

「今年はすべてがいい意味で想定外。予想以上でした。人はこれほどまでに奇想天外になれるのだと」

と続けた。3年目となった2025年のおかサマ。参画企業は46社、イベント数27、イベントに参加したお客さんは1,308人となり、名実ともに大型コミュニティへと成長した。運営に関わる「おかサマメンバー」と呼ばれるスタッフの数も118人にのぼった。

初年度のトークイベント『夜の社長室』でMCを務めた原智彦氏

初年度、原氏が声をかけたのが11社。自身が転職前からのつながりや、現職で関係のあった企業など、原氏の人となりをよく知る仲間たちだ。「やろう、やろう!」と勢いよく集まったものの、いざミーティングとなると「原さん、そもそも何をやればよいの?」「何かコンセプトがないと収拾つかないでしょ」の声に、微妙な沈黙が流れた。

「皆さん僕に何か具体的なアイデアがあると思っていたようです。何もないところから皆で楽しいことを生み出したい、という淡い想いは消えかかりました。声をかけて集まってもらったのに、この期待外れ感はマズイ。焦って見渡すと、ITやドーナツ、団地経営や農業など、皆さん全然違う事業者でした。この『違い』こそが価値だと閃いたんです。そこで『違いを学ぶ』という発想に行きつきました」

そこからの展開は早かった。夏に学ぶから「サマースクール」。さらに春日井製菓らしく「おかしな」をトッピング。こうして「おかしなサマースクール」が誕生した。

異業種の「違い」を価値に変えることと、これまで1ミリも関係がなかった人たちをかき混ぜ、仲間となること。これがおかサマの核となった。

本領発揮の晴れ舞台を創る

自らを“言い出しっぺ”と呼ぶ原氏は振り返る。

「初年度は僕が先頭に立って旗を振り、参画企業の人たちを引っ張っていきました。あえて関連性の低い企業同士を組み合わせることで、おもしろいイベントが生まれ、おかしな実験室のメンバーが現場を走り回ってくれました」

2年目になると状況が変わる。初回のおかサマに一般参加者として訪れた人たちから「次は運営側として関わりたい」と次々と手が挙がり、参画企業は29社に。さらに3回目となった今回は、同じような流れで46社にまで広がった。

「正直、全部のイベントを追いきれなかった部分もありますが、イベント企画の提出締め切りが迫ると、それまで動きが鈍かったメンバーたちが、突然、驚くほど創造的なアイデアを形にしていくのです」

一例を挙げると、メガネメーカーや医療法人、食品メーカーなど、今回のイベントで最大14社がコラボレーションして無意識の先入観を取り払う『イロメガネクエスト』や、若手が参画企業の役員に、次々と質問するトークセッション『夜の保健室』。メーカーの端材を活用してこどもが想像力を発揮する『もったいないキッズクリエイター』、団地を舞台にした謎解きイベント『高蔵寺ニャータウン』や、失敗談を笑い飛ばして学び合う『言い訳Night』など、イベント内容は実にカラフルだった。

「想定していなかった多様なプログラムが生まれました。自分が手を離すと、想像をはるかに超えて遠くまで行くんですよね。信じて任せて手放すと、人は本領を発揮して、本当に奇想天外になると実感しました」

「おかしな実験室」という部署

こうした場を設計した背景には、原氏が室長を務める『おかしな実験室』の存在がある。おかしな実験室は2022年に春日井製菓内に設立された部署。2018年に中途入社した原氏が立ち上げ、現在も率いている。ことわざの「子はかすがい」の「鎹(かすがい)」にヒントを得て、「人と人が面白くつながる実験で、社会をちょっと明るくする」をスローガンに掲げ、「お菓子」と「おかし(おもしろい)」をかけ合わせながら「仲間づくり活動」を続けている。

彼らは、一般向けトークイベント『スナックかすがい』や、UR都市機構との『団地味ラムネプロジェクト』、事前復興と産業振興を兼ねた地方応援イベント『海と酒』を高知で開催するなど、おかしな(おもしろい)「仲間づくり」を全国で精力的に推進。その積み重ねにより春日井製菓への親近感が高まり、気づけば店頭でKasugaiのロゴを探す人たちが増えているという。

団地味ラムネプロジェクト

2025年1月から始動した『団地味ラムネプロジェクト』

おかしな実験室

2025年5月25日高知市内で開催した『海と酒』

おかしな実験室

2025年10月15、16日にグラングリーン大阪内の「Blooming Camp」で開催された第35、36回目の『スナックかすがい』

3つのルールが生んだ変化

話をおかサマに戻そう。
おかサマに参画するためのルールは、実にシンプルだ。

  1. やりたい人がやる
  2. 3社以上でイベントを作る
  3. 意外性と納得性で笑顔を生む

さらに、オープン(心も口もどんどん開こう)・フラット(公正で、上下のない世界をつくろう)・ダイバーシティ(違いを楽しみ尊重しよう)を行動指針に据えた。

こうしたシンプルなルールだけで、想像もしていなかった景色が広がったと原氏。手探りで始めた初年度は、原氏とコアメンバーが中心だったが、2年目、3年目と進むにつれて、メンバーたちが自主的にイベントを企画・運営するようになっていった。ライバルと肩を組み、業界ごと進化させる“同業種多社制”は、おかサマならではだ。

おかしなサマースクール

10回に及んだオンライン企画ブレスト。突拍子もないアイデアが次々と飛び出し、「おかしな」要素をみんなで考える。イベントの骨子が固まってきたら、あとは“自由恋愛”で参加したいイベントに手を挙げてチームを組んでいく

SLOW ART CENTER nagoya

参加企業見学ツアーで、会場のイメージをメンバーで共有。イベントのイメージを膨らませた

おかしなサマースクール

参加企業見学ツアーのはずが…ミッドランドスクエアシネマ名古屋の大スクリーンで急遽始まったゲーム大会!?

おかしなサマースクール

2025年9月26日おかサマ2025大打ち上げPartyにて。2月のキックオフの時に「はじめまして」で出会ってから、7月21日〜8月31日まで27のイベントを全力で駆け抜けた118人の仲間たち。9月以降は参画企業がつながり、新たな協業事業も数多く動き始めている

おかサマに参加したメンバーからは「社内では自分の意見を言えないが、おかサマの活動を通じて『言ってもいいんじゃないか』と思えるようになった」とか、「普段まじめなことばかり考えてしまう自分に愕然とした」など、率直な声が聞こえてきた。工場で職人として黙々とものづくりに向き合っていたメンバーが、初参画の際は手を貸す程度だったのが、今回は前面に出てイベントリーダーとして八面六臂の活躍を見せた。またあるメンバーは、普段の仕事とはまったく関係ない“B面”の偏愛力から斬新な案を出し、行き詰まっていたチームの救世主となった。

自分でも気づいていなかった、自分の価値を発揮する場がここにあった。

おかしなサマースクール

自分でも気づいていなかった自分の価値を、仲間たちが引き出し、自分で輝かせる。それがおかサマの「本領発揮の舞台」

原氏が何度も繰り返し強調する言葉がある。

「今のあなたに価値がある。今のあなたで価値を出せ」

やりたい人しか来ていない。会社から選抜された人でもない。むしろ、会社を説得して参加しているメンバーも多い。
だからこそ“今のあなたで価値を出す”。その本領発揮の舞台がおかサマなのだ。
舞台に立つことで、自信を得る人もいれば、時に自信喪失する人もいる。それでもいいと原氏はいう。

「言われてやったことではない。自分で手を挙げてやったことだから」

誰のせいでもない、すべてを自分ごととして捉えることから得られる力は、必ず次に進む力になるはずだ。

学び合いのコミュニティによる「人材成長の加速装置」

おかサマのメリットは、企業知名度の向上、複数社で行うことによるコスト削減、集客力のアップ、さらに売上の伸長などいくつも挙げられるが、4回目となる2026年は、ズバリ「人材が成長する」に絞って、打ち出していくという。

多くの企業では、業務は指示や手順書に基づいて進める場合が多い。しかし、おかサマでは、参加者が自らアイデアを出し、仲間を見つけない限り何も起こらない。また、自社以外に2社以上と協働しなければならないため、業界も職種も、スピード感も判断基準も違う相手との意思疎通が必要となる。しかも意外性に富んだ「おかしな」イベントでなければならない。メンバーたちは、忙しい本業の傍らで取り組むため、時間がない。必然的に1回のミーテイングの密度が濃くなることはもちろん、様々な感情も揺れ動く。

他社の人の発想力や思考の深さに驚き、視野の広さや仕事の速さに敗北感を覚え、自分の力量を痛感する。しかし、おかしなことをやりたい人は、総じておもしろい発想を持っているため、決してネガティブに暗転することはない。共創の場では、異分野の人との交わりを通じて人が自然と育っていく。27のイベントがそれを証明したのだ。

おかしなサマースクール

参画企業によるオリジナルアイテムも次々誕生!「おかサマめがね」と「おかサマシール」

シャープ代表取締役社長・取締役会長を歴任し、現在は株式会社Kconcept代表取締役社長を務める片山幹雄氏は、あるトークイベントで、こう語っていたことを思い出した。

「共創の成否を決めるのは、会社と会社の組み合わせではなく、“誰と誰”がつながるか。人こそがレガシーになる」

究極は人と人のつながりからしか共創は生まれない。まさにおかサマは、そのことをメンバー全員が体現している場だと言える。
自分の殻を破り、自分だけでわからないことはわかる人を探し出して会いに行く。その積み重ねから、共創が生まれ、会社も社会も変わっていく。
※注:株式会社Kconceptはおかサマ参画企業ではありません

一方で、会社に戻ると、「忙しい期間に関係ないことをしている」「何の意味があるのか?」「費用対効果は?」と職場で否定的な対応をされるケースもあったという。原氏はこの原因は、参画企業の経営層の理解不足にあると捉えている。そこで2026年からは原氏と役員クラスの経営層との面談を必須にする方針だ

「経営者は従業員の成長を心底願っています。人の成長なくして事業の成長はない、と身に染みていますから。『研修など取り入れてもなかなか変わらない』と嘆く経営者に、おかサマの仕組みを伝えると『なるほど確かにこれは良い』と応援してくれます。僕からは、おかサマメンバーを守ってもらうよう、約束を取り付け、さらに辞令交付や評価対象に組み込むことなど、かなり踏み込んだ提案をしています。一方で、おかサマに懐疑的な経営者から『どんな効果があるのか?』と問われたら『どんな効果を求めていますか?それを一緒に創りませんか?』と答えています」

おかしなサマースクール

2025年から、メンバー内から自然発生的にスタートしたのが「リハーサル」。実際の流れにそってオペレーションをチーム全体で確認

おかしなサマースクール

「リハーサル」を重ね、お客さんに喜んでもらいたいという強い気持ちが伝わるものに

 

企業風土と地域社会を変える大いなる“実験”

3年目を終えた今、原氏の関心は「量」から「質」へと移っている。

「コロナが明けてイベントが増え続ける中、単に“企業が一緒にやっている”レベルでは人は集まりません。もっともっと“おかしな”を突き詰め、見たことのない境地を拓く必要があります」

最後に原氏はこう締め括った。

「会社を明るくするということは、結果的に社会を明るくすることになります。会社を作っている人=社員です。社員が輝かずして、会社が輝くわけがありません。僕は『一燈照隅、万燈照国(いっとうしょうぐう、ばんとうしょうこく)』という言葉が大好きです。最初は一隅を照らすような小さな灯火でも、その灯火が十、百、万と増えれば、国中を明るく照らすことになる、という意味です。おかサマがその灯火になれたら、と思っています」

おかサマが示すのは、企業間のコラボレーションの新しい可能性だけではない。働き方や人の育ち方、地域のあり方、さらには日本社会のあり方への問いかけだ。トップダウンによる提携ではなく、「おもしろいことをしたい」という個人の意志から始まる、ボトムアップの協働。そこから各自が自らの創造性と可能性を再発見していく。

おかしなサマースクール

前代未聞の大規模コミュニテイ。おかサマファミリー

 

“みんなが本領を発揮して主役を張る。おもしろい仕事は作れる。作るのはあなたである”

という原氏の言葉はシンプルだが本質を突いている。

おかサマの集大成として、毎年「おかサマリターンズ」という振り返りイベントを、映画館で行っている。スクリーンの前で、メンバーがおかサマに参加する前と後の自分の変化について、自らの言葉で語る機会でもある。マイクを握り、観客に向かってまっすぐに語る言葉にも、その姿勢にも、確かな変化が感じられる。わらしべ長者のように、一つひとつの出会いが価値を生み、それが連鎖していく。おかサマは、日本の企業風土と地域社会に新しい風を吹き込む大いなる実験として、今後も注目に値する取り組みであることは間違いない。

おかサマリターンズ

映画館で開催された「おかサマリターンズ」

おかサマリターンズ

平日夜の開催にもかからわず、250人の観客が集った

ライター:ましもさとこ

一日一餡を公言するアンコ好きライター。
甘いも、しょっぱいも、熱いも、冷たいも…どんなお菓子も人間もなんでもござれ!
2児の母でもあり、自宅にはお菓子専用ストッカーを設置。
通称「グミ也」と呼ばれるグミ好きの次男のために箱買いしている「つぶグミ」(特につぶグミプレミアムがお気に入り)が占拠している。