タイトル:1ねん3くみ いがぐりくん
今から28年前。息子が小学校1年生の時だった。息子が遊び半分で自分の髪を切っていて、頭の天辺近くの髪まで切り落してしまった。息子を連れて散髪屋さんに駆け込んだのだが、坊主頭にするしかなかった。明くる日に学校から帰宅した息子は友だちにからかわれたらしく、学校へ行きたくないと言い出した。
息子の同級生のママ友に相談したら、次の日の朝、翔君と一緒に迎えに来てくれた。それでも息子は、腰を上げなかった。
そして3日目の朝。ドアを開けると、丸坊主にした翔君が飛び込んできた。その瞬間、息子の顔に笑みがこぼれた。目を潤ませた私に彼女は慌てて目をそらし、「暑くなってきたから、翔もイガグリ頭にしたんよ」って、あっけらかんと笑った。それからイガグリ君は一人増え、また一人増え、夏休み前には1年3組のイガグリ君は6人になった。もう誰も息子を笑う友だちはいなくなった。あの時の彼女のさり気ない思いやりを、私は一生忘れない。
主催者より
特賞に選ばれた4作品は、絵本作家さんが当選者の皆さまにお電話し、400字では語りきれなかった背景や気持ちをお聴きし、一緒につくりあげました。原作からの変化もお楽しみください。
原作者 渡辺 惠子さんの受賞コメント
この度は思いもかけぬ吉報に感無量です。
私は息子が誕生してからずっと、母の名前が刻まれた絵本を自分の子どもに贈りたいという夢を抱いていました。でも現実は、絵も文も下手な私が絵本など作れるはずがなく、すっかり諦めていたところ、偶然に御社のキャンペーンのホームページが目に留まりました。
私のエピソードが絵本として生まれ変わった作品を初めて拝見した時、感激で胸がいっぱいになりました。と同時に、プロ作家の方々のクオリティーの高さに驚嘆しました。
きむら先生と、おくやま先生のご尽力のお蔭で、私はついに自分の夢を叶えることができました。本当にありがとうございました。ページをめくる度に当時のことが思い出され、目頭が熱くなりました。あれから30年の歳月が経った今、小さき頃の思い出として、母から息子にこの絵本をサプライズしたいと思っています。
こんな素晴らしい企画を提供してくださった主催者の皆様に心から感謝申し上げます。