タイトル:あたたかい上履き
「小学生になったから、上履きは自分で洗う!」そう宣言した6歳の私と父との間におきた、深くてやさしいエピソードです。宣言から半年が経った頃、上履き洗いが面倒になっていた私は日曜の夜になってやっと洗って干しました。10月の夜は寒くて乾くはずがありませんでした。(濡れていても履けるもん!)
朝になると、ランドセルの横には左右きちんと並べて置かれた上履きがありました。(干しておいたはずなのに…)袋に入れようと上履きを持ってみると中までしっかり乾いていて、ほんのり温かかったのです。
不思議に思いながら台所に行くと「上履き乾いてた?」あきれ顔の母が言いました。「うん…温かかった。」寝ぼけた声で答えた私に母は笑いながら「パパがね、仕事行く前に急いでドライヤーで乾かしてたよ!」と教えてくれました。父が「冷たいと可哀想だから。」と言いながら。下駄箱で履いた上履きは温もりがあり、私を深くやさしく包んでくれました。
主催者より
特賞に選ばれた4作品は、絵本作家さんが当選者の皆さまにお電話し、400字では語りきれなかった背景や気持ちをお聴きし、一緒につくりあげました。原作からの変化もお楽しみください。
原作者 馬込 悦子さんの受賞コメント
春日井の黒あめといえば、黒糖好きだった父を思い出します。
父との間には深くてやさしいエピソードがたくさんありますが、一番最初に頭に浮かんだのが上履きの温もりでした。当選の連絡を頂いてからずっと夢の中にいるような幸せな時間を過ごしています。
やまだなおと先生が制作して下さった絵本は、私の大切な思い出がちりばめられていて、愛がつまっていて、優しさにあふれる温かい作品になっていました。子どもへ孫へ繋げていきたい宝物です。
絵本の中の本棚やおもちゃ箱の夜と朝の間違い探しのような変化を見て、笑顔がこぼれました。子どもの頃から大好きな絵本があります。絵本は私の小さな世界を大きく広げてくれました。大人になった今でも、飴をなめながら絵本を読んでいると子どもの頃の純粋な気持ちを取り戻せるような気がします。やまだなおと先生がカタチにして下さった私の深くてやさしいエピソードが、ひとりでも多くの方々に届くと嬉しいです。