タイトル:傘の旅
「えーすごい雨だ」
お昼過ぎまでの晴天が嘘だったかのように、雨が降っている。
「傘持ってきてないよ、どうしよう」
隣にいる友達が困った表情を浮かべる。
「私、家近いから、この傘使っていいよ」
と言って、友達に傘を渡し、走って帰った。
次の日。友達が申し訳なさように私の元へ来て、
「バス停で妊婦さんと子供が傘がなくて困ってて、思わず、貸しちゃった。だから、あの傘返ってこないと思う」と言った。
「本当にごめんね。」
と友達は続けた。友達は私が怒ると思ったのだろう。けれど、私は怒るどころか幸せな気持ちになった。
「あの傘ね、実は私が中学生の時に、お見舞いの帰り、土砂降りになっていて、病院の入り口で困っていたら、知らないおばちゃんに「返さなくていいから、使いなさい」って渡された傘なの。雨で困っている人を助けるのがあの傘の本望だよ」
一人一人の優しさで旅を続ける傘。今はどこにいるのだろうか。
絵本作家の落合さんより
私にとって、当選された方のエピソードをもとに、絵本を作るのは初めての経験でした。
ZOOMで当選者の方にインタビューをし、400字では伝えきれなかった背景などをお聞きすることができました。
お話をふくらませていく過程はとても楽しい時間でした。
絵本と合わせて、ぜひ当選者の方のエピソードをお読みください。ありがとうございました。
原作者 あーちゃんさんの受賞コメント
落ち込んだ時や辛い時に、人が差し伸べてくれる優しさがもつ力。その凄さや温もりを、初めて実感した経験が病院で傘を貸してもらった時でした。
私にとってこの経験は、「こんな人でありたい」と思う人との出会いで、思い出すだけで心があたたまります。あの時の感情や想いを文章で表現するのが難しかったですが、落合先生が柔らかく、優しい絵の雰囲気や言葉で見事に表現してくださいました。この素敵な絵本を心の糧に、優しさのバトンを繋げていきたいです。絵本作成に関わってくださった皆様、本当にありがとうございました。